大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(行コ)74号 判決

控訴人(原告) 山口清太郎

被控訴人(被告) 新潟県知事

訴訟代理人 松岡敬八郎 秋山弘 外五名

主文

原判決を取り消す。

本件を新潟地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が新潟県小千谷市片貝町字大屋敷五九三〇番一畑三三五平方メートルにつき昭和五二年四月二五日付(新潟県指令小農地第五〇九六号)でした譲受人頓所孝次郎・譲渡人丸山太四郎間の農地法第五条の規定による農地転用許可処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

行政処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者である限り、当該処分の相手方以外の第三者であつても、提起することができるというべきである。

本件訴えは、本件農地転用許可処分の相手方以外の第三者である控訴人が、本件農地転用許可処分に係る本件畑地に隣接する農地を所有し、かつ、耕作する者であること、及び本件農地転用許可処分にもとづき本件畑地が宅地に転用され、その地上に建物が築造されることにより、右隣接農地が日照、通風等を阻害され、農作物の収穫に激減をもたらし、農地としての効用を失うにいたる虞があることを理由にして、本件農地転用許可処分の取消しを求めるものである。

農地を農地以外のものに転用することを許可する場合において、都道府県知事(又は農林水産大臣)は、農地法の目的(第一条)に照らして、当該転用許可に係る農地に隣接する農地につき耕作者がその農地を確保して農業生産力を増進し、耕作者の地位の安定を図ることは、同法の保護する耕作者の権利ないし利益であるから、当該転用許可によつて隣接農地の耕作者に波及する利害休戚を考量し、その権利ないし利益を不当に侵害することがないように当該転用目的のための土地利用関係を規制すべきであると解するのが相当である。したがつて、控訴人はその相手方ではないが、本件農地転用許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者であると解すべきである。

これと異なる見解に立つて、控訴人の右原告適格を否定して本件訴えを却下した原判決は、不当であるから取消しを免れない。

よつて、民訴法三八六条、三八八条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川幹郎 真榮田哲 木下重康)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例